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昨日の12月20日、PSYCHOSIS公演の「G線上のアリア」が
無事に大千秋楽を迎えられることができました。
平日火曜日の14時開演というのに劇場は満員御礼状態で
階段通路に席を増設するなど、この公演の人気の高さが伺えましたな。
千秋楽を終えたのでネタバレ有りの観劇した感想など綴っておこうと思います。
※掲載してある写真は開場から開演直前までの撮影OKのサービスタイムに
自分が撮影したものです。
「G線上のアリア」はジロンド派とジャコバン派が対立するフランス革命を軸に
日本・大正時代の演劇界で新劇運動を巻き起こした島村抱月と松井須磨子、
さらには現代の女子高生・まつえがクロスオーバーした物語です。
脚本家・高取英さんの超絶した物語の展開、
そして劇団PSYCHOSIS主宰者にして演出家の森永理科さんによる
アバンギャルド全開な独特なセンスにより舞台から目が離せなくなりました。
上演時間は約1時間45分とアナウンスされてたと思うけど
観る側としてもアドレナリンが出っぱなしになったスゴイ作品だったと思います。

この劇団の特徴として「爆音上映」というのがあるけれど
ライブハウスばりにデカイ音、ロックチューンな楽曲に
ジロンド派、ジャコバン派らキャストによるダンスシーンは
めっちゃカッコよくってシビレましたな。
暗転する直前、ギロチンの枠の中からマリー・アントワネット(森永理科)が
ぬるっと姿を現してるところとかエモすぎてヤバかったです。

冒頭はルイ16世がギロチンにかけられるというショッキングなシーンから
始まりますが、まぁ~このギロチンのデザインのカッコ良さよ。
出演者でもありイラストレーターでもある上野アサさんによるものですが
よくもまぁ~舞台上に再現したなぁ~と👏👏👏。
ギロチン。罪を断罪する断首装置。
観劇した後で改めて物語を振り返ってみて思うのはこのギロチンこそが
初めから終わりまでキーアイテム的な存在ではなかっただろうかという事です。
何をもって「罪」とするのかは…観客の個人個人の主観に委ねますけれど
ま、観劇後はとにかくいろいろと考えさせられますね。
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話しを開演前(撮影OK時の)に戻しますがステージでは
島村抱月先生(月蝕歌劇団レジェンド級の女優、スギウラユカ様!)による
島村抱月とは?という簡単な自己紹介と大正時代の演劇界の状況を
フリップボードを使ってわかりやすく説明されておりました。
この情報があるのとないのとでは本編の理解度が段違いなので
とても有り難かったです。こういう演出もイキだなぁーと思いました。
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また抱月先生の招きにより、PSYCHOSIS公演物販コーナーでは
名物お姉さんになりつつある水上ゆかさんも壇上に登場しました(笑)
今回の物販では私の予想した通り、ランダムチェキの売れ行きが好評でして
千秋楽前日には用意されてた分のチェキがすべて完売してしまったとのことでした。
ブロマイドでは役者がキリっとカッコいいポーズで撮ってるのに対し、
チェキの方は出演者同士でワイワイ楽しく撮ってるというギャップが好きなので
今後のPSYCHOSISの公演でも是非ともレギュラー化してほしいアイテムですね。
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ステージでは芸術座の看板女優・松井須磨子(永野希さん)が登場。
「サロメ」の演舞を妖艶なる美しさをもって熱演され、ただただ圧巻でした。
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我々観客は時に芸術座に芝居を見に来た観客となったり、
また時には革命後のフランス議会での評決員のひとりとして、
または大衆の眼となりてこの物語に参加するような感覚で
「G線上のアリア」を体感していくことになります。
この辺りのエンタメにとんだ演出も実に上手いよなぁ~

高取さんの戯曲には高取さん自身が漫画雑誌の編集長を務めたことや
マンガ評論本をいくつか執筆されておられるように、
マンガ的表現がうまいこと盛り込まれていたりするわけでして、
かくいう私もアニメヲタクながらもすんなりとアングラ歌劇にハマったのは
初めて観た舞台が高取さん主宰の月蝕歌劇団だったからだと思っております。
今回の「G線」でも舞台後方にマンガの背景コマ
(集中線や薔薇がキラキラしたやつとか)が設置してあって、
役者さんがその背景を使って上手いことマンガ的な演技をされてたのには笑った。
ギャグ演技に対してのスポットライトの当て方も実に効果的で感心したし、
おもいっきりデフォルメ化された坪内先生(壺を被って)の登場には
場内から笑いの声があふれてましたね~
いやぁ~まさかこんな最強キャラが隠されていたとは思いもしませんでしたw

若返りの秘薬で老婆から少女へと変貌したまつえを演じられたのは
これまたレジェンド級女優の大島朋恵さん。
このメタモルフォ―ゼを目の当たりにしてホントにビックリしました。
ステージ序盤の変身シーンこそ、謎のカーテンで隠されてからの登場でしたが
(これはこれでマンガ的な表現方法でよきよき!)
物語後半で秘薬の効果がきれたまつえが少女から老婆に戻るシーンでは
最前列で観ていた自分も思わず(え!エエーッ!?)って驚くぐらいに
急速に老いていく大島さんの演技は凄かったです。
漫画、アニメ、ハリウッドのCGでもないのに
生身の演技でここまで驚かされるとは思ってもいなかったよ…
役者ってスゲーな!って素直に感動しました。

高取さんの作品ではよく時空を超えて
二つの世界が融合して物語が進行したりするのですが
今回は時空の跳び越え方がタイムマシーンでもなければ
中国四千年の秘術でもありませんでした・笑
その方法とは「夢」。
スペイン風邪と急性肺炎を併発して今まさに
この世を去ろうとする島村抱月の最後の夢だったわけですが
実に儚げで美しい跳躍方法だったなぁ~と思いました。
誰にも邪魔されずにおもいっきり恋をしたい!という抱月の願いは
夢の中でまつえという存在となって若き革命家・サンジェストと恋に落ちる。
実にマンガ的であり、かつロマンティックじゃないですかー!
ここで終わりならハッピーエンドで大団円なわけですが
そうはならないのがこれまた面白いところなのです。

光の存在(抱月=まつえ)が眩しければ眩しいほど
影という存在もまた色濃くなろうというもの。
その影となる対照的な登場人物こそ、
まつえを革命直前のフランスに連れてきたみちるであり、また抱月にとって
ミューズであると同時にトラブルメーカーでもあった松井須磨子なのでしょう。
みちるも須磨子も永野希さんが演じていたので
もしかしてこの両者には何かあるんじゃないかと思っておりましたが
舞台も大詰めの場面にきて、みちるも須磨子も実はさらなる第三者が
演じていたのだー!とトンデモ展開が明かされたのには驚きましたな。
まさに青天の霹靂とはこのことか!
その第三者という人物こそ、抱月の妻・イチ子だったんですねー。
イチ子にしてみれば抱月は自分と子供を置いて家をでていった亭主で、
須磨子は抱月の不倫相手として、共に憎い相手であっただろう。

みちる=イチ子はまつえにオマエは島村抱月なんだと正体を告げ、
抱月を夢から現実に帰すばかりか、
抱月の死後に須磨子は後追い自殺を図るという未来を教えます。
そうして抱月は苦悩のうちに息を引き取り、
イチ子の復讐は果たされるのでありますが…
ふと、なんでイチ子は抱月の夢の中に入りこむことが
できたのだろうかと思ったりもしましたが、時系列的に考えると
サンジェストに危ないところを救ってもらったという「みちる」。
彼女は確か、魔女裁判にかけられるところを
サンジェストに助けてもらったんだよね。
その後、サンジェストとまつえの会話の中に
日本に渡った魔女というお話しがでてきます。
おそらくはその魔女というのがみちるであり、
後に抱月と結婚した時に名乗っていた名前が「イチ子」だったのではないか。
イチ子が魔女だとわかればすべてのカラクリが納得できますもんね。

では何故、イチ子はみちるとして時には須磨子として
抱月の夢の中に登場したのでしょうか…
きっと抱月の見る夢、そこへ共に時空跳躍することによって
自分の想いに応えてくれなかったサンジェストへの復讐、
そして愛する者を奪われることの辛さを
まつえ(抱月)に味合わせてやりたかったんじゃないかと思います。

エピローグではサンジェストと共にギロチン送りになったはずの
ロベスピエールが登場しイチ子と合流するシーンがありました。
会話の中で不老不死の薬を飲んでいたロベスピエールは処刑の後で
身体を燃やされる直前にみちる(イチ子)に助け出されたとありました。
正直、私にはこの二人の関係性についてはよくわからないです。
イチ子は何故ゆえ、ロベスピエールを助けたのか。
はたしてふたりの間に男女の関係にあったのだろうか。
仮にそうであるならばイチ子があそこまで
サンジェストと抱月にこだわる理由がボケてしまうような気がするし…
(過去の恨みより新しい恋愛に向いて生きていけばよいように思うけど)
個人的には共に不老不死の運命を背負った者同士というイチ子の感傷が
彼を助ける動機になったのではないかとも思ったりしてますが…
うーん、どうなんでしょうね。
舞台に幕を下ろすことになる最後のロベスピエールの台詞も
「次はロシア革命だァ!」だなんてね~
いまだに燃え続ける彼の革命魂であった点とかね。
折角、助けられたその命。イチ子と
愛のある暮らしを選択するんじゃないんかーい!とツッコミしたかったですw
もしかしたら高取さんの頭の中には
「G線」の続きの物語の構想があったのかもしれませんね~と
その辺りの考察は尽きることがありません。

それにしてもイチ子の情念を見事に表現した永野希さんの演技は
私自身のファン目線といった点を取り除いたとしても
かなり素晴らしいものだったと思います。
個人的にツボったのは「サロメ」の稽古シーンでの須磨子ですね。
怒ったり、拗ねたりとコロコロ変わる表情は実にコミカルで愛らしくて好い。
このシーンだけ見ると永野さんが以前に演じた悪魔マイナス
(「ネオ・ファウスト地獄変」より)を彷彿させるものがあるのですが
天真爛漫な振舞いのマイナスと比べると
イチ子(みちる、須磨子)の演技は明るさの裏に潜んだ憎悪がね~
時折、顔をだしてきてはゾっとさせられるものがありました。
そういった辺りからも永野さんの舞台女優としての
成長ぶりが伺えたように私は感じました。

女優としての顔といえば森永理科さん演じるマリー・アントワネット。
舞台に登場した時間は決して長くはなかったものの、
時にコミカルに、時に知的に、そして時に冷徹かつ非情さで
その存在感を見せつけた森永さんの演技には圧倒されましたね。
処刑を命令した時に見せた冷ややかで厳しい目線はゾクゾクもんでしたw
あと登場時にやたらとデカイ菓子袋を持ってるなーと思っていたけど
後々になってアレはマリーアントワネットの
「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」の名言から
きてたんだと気づき、今頃になって思い出し笑いしておる次第であります。
と、「G線」公演の感想は一旦ここで終えたいと思います。
今年も「TSUYAMA30」に「G線上のアリア」と2本の高取作品の上演には
とても楽しませていただきました。
PSYCHOSISの皆さん、ありがとうございました。
引き続き、来年の皆さんのご活躍も楽しみにしておりまーす。